2024年より高校野球での使用できるバットが低反発の新基準バット、すなわち飛ばないバットに変更されました。実際、春の選抜高校野球ではホームランの数が3本(内一本はランニングホームラン)に激減、試合も得点の少ない接戦が数多く展開されました。
そのような中、選抜大会が終わった4月中旬、5社のメーカーが販売していたバットが新基準の規定を満たしていないことが発覚し、すぐさま該当するバットの使用の禁止が公表されました。
どのような規定違反?
新基準は
バットの最大直径が64mm以下(以前は67mm以下)、金属の厚みが4mm以上(以前は3mm以上)に規定されています。
今回の違反部分は
金属の厚みが4mm以上であるべきところが、3.5mm~3.6mmと規定を下回っていました。
厚みが薄くなると、なぜダメなのか?
トランポリン効果により高反発になり飛びやすくなる
金属部分が薄いとボールが当たった衝撃で金属がたわむことによって反発が生じます。この反発によりボールを遠くへ飛ばす効果が高まります。ちょうど、トランポリンの反動のように例えられトランポリン効果といわれています。トランポリンも厚手のキャンバスよりも可能な限り薄手のキャンバスをピンと張った方が反発が高まります。それと同じです。
飛びを押さえる低反発にするために
バットのサイズとしては、直径64mm以下、厚さ4mm以上と規定されていますが、この基準は反発力を表す数値として6000N以上という基準をもとに算定されています。このサイズを満たしていれば、本来は6000N以上という基準もクリアできると考えられています。しかし、今回の規定違反のバットは、バットの厚さだけでなく、反発力を表す数値も5300N~5500Nとなっていて、規定よりも高反発の飛ぶバットとなっていました。
なぜ、低反発バットに規定が変わったのか?
速い打球から野手を守るため
今までの高反発のバットは、それゆえ打球の初速が速く打球を捕球しようとした野手が思わぬ怪我を負う危険性が増加してきました。特に、投球動作を終えたばかりの投手は飛んできた打球に反応できずに当たってしまうというアクシデントが、やはり増加傾向にありました。このような試合中のアクシデントを減少させるために、打球の初速を押さえるために低反発のバットに変更されました。
投手の投球数の抑制
高反発のバットによる安打、長打が増えると必然的に投手の投球数は増えてしまい投球過多になってしまいます。バットの性能による安打、長打を減らすことにより投手の投球過多を回避する目的もあるといえるでしょう。
試合時間の短縮
乱打戦になると必然的に試合時間が長くなってしまいます。また、守備側の時間も長くなることにより体調の異変や熱中症などの危険も高まります。打者の技術を超える安打を減らすことにより、攻撃時間の短縮ひいては試合時間の短縮につなげることができると考えられます。
性能によらない打撃向上につながる
今までの高反発のバットでは打者の技術以上の安打や長打が出る可能性が高くありました。高校時代にバットの性能で打撃成績が良かった選手が、カテゴリーが変わり木製バットになったとたんに活躍できなくなったということがよくありました。これは、プロに進むような選手でも見られた現象です。要は、バットの性能に頼ったバッティングをしていた結果で、正しい打撃技術が身についていなかった結果です。低反発バットは木製バットに近い飛距離と言われています。バットの性能に頼らない正しい打撃技術を養っていくには本来の姿といえるかもしれません。
規定を満たしていなかったメーカーは?
今回の規定違反のバットを販売していたメーカーは5社あります。5社はともに石川県のSSプロダクトという会社に製造依頼をしていたようです。また、SSプロダクトはバットの製造を中国の工場に委託していました。規定違反の原因は発表されていませんので、メーカーの故意ではなく製造を請け負っていた中国の工場の過失による規定違反なのか故意による製造における規定違反なのか、メーカーの管理不足による過失なのか、故意による規定違反なのかは不明です。
ザナックス
古くからある野球用品メーカー。少し前なら藤川球児投手が使用していました。現在は、阪神タイガース湯浅京己投手、広島東洋カープ床田寛樹投手、九里亜蓮投手、松山竜平選手がアドバイザリースタッフとして使用しています。
三共スポーツ
シュアプレー(SP)のブランド名で古くからある野球用品メーカー。DeNAベイスターズの牧秀悟選手がアドバイザリースタッフとして用品使用をしています。元ヤクルトスワローズの真中満選手も使用されていました。
ハイゴールド
大阪に本社を置く野球用品メーカー。グラブやスパイク、メンテナンス用品も人気がありブランドにこだわって使用している人も多い。
イソノ運動具店
野球用品としてはマイナーかもしれませんが、野球用品メンテナンスや応援グッズ、記念品なども販売するメーカー。
ボルテカ
ボルテカと聞いてもピンとこない人も多いと思いますが、特殊なグリップエンドの形をしたアックスハンドのバットを販売しているメーカー。
購入したバットや使用中のバットはどうなる?
4月19日以降、大会、練習試合、練習での使用が一切禁止されます。またバットは回収されることになっています。
個人で購入した場合、高野連から配布された場合、メーカーから直接支給された場合によって回収方法は変ってきます。
スポーツ店で販売
今回規定違反が発覚したバットは、一般的なスポーツ店での小売りでも販売されていたため、個人用バットとしてスポーツ店で購入された球児もたくさんいると思います。
この場合は、購入したショップに持参するか、メーカへの返送で対処してもらえるでしょう。
高野連から配布
また、今回は、新基準バット導入初年ということで全国の高校に各都道府県高野連から3本ずつ配布されています。この際に、高野連から配布されたバット(バットのメーカを希望できるものと、ランダムで配布されるものがあり)に、この規定違反のバットが含まれていた場合があることも多々あると思われます。おそらく、希望メーカーではなく高野連がランダムで配布するバットの方に含まれていた可能性が高いのではないかと考えられます。
高野連から配布されたバットは、各都道府県の高野連からアナウンスがあるでしょう。
メーカーからのモニター配布
バットメーカーの営業さんが自社製のバットの評価を得るために交友のある高校に新しいバットをモニターとして配布されていたものも、たくさんあると考えられます。そこでの使用で評判が高まれば、今後のスポーツ店での販売にも影響があるからです。
この場合は、メーカーの営業マンから直接、回収の連絡があるでしょう。
選抜大会でも使用されていた
新基準の低反発バットの使用が開始された春の選抜高校野球でも、参加32校のうち5校が基準違反のバットが使用されていました。
しかし、これは使用した高校に故意や過失があるわけではなく、規定通りのバットだと思って使っていたので問題はありません。
むしろ、早い段階で規定違反が発覚したので良かったのではないでしょうか。